牛を診察する際の着目点【覚えておくべき3ステップ】

こんにちは、KENTAROです。
今回は、「牛を診察する際の着目点」というテーマでお話ししていきます。

おそらく新人獣医師の誰もが次のような経験をしたことがあるのではないでしょうか。

「牛はぐったりしているけど、どこが悪いのかよくわからん…」

私も何度か経験ありますが、ほんと絶望的な気持ちになりますよね。こんな不安を解消するために本記事を執筆しました。

これから紹介する重要ポイントさえ抑えておけば、牛の診察における不安や悩みを解消できます。

牛を診察する際の着目点

牛の診察は、次の3ステップで行います。

  1. 全体を見る
  2. 稟告を聞く
  3. 個体を見る

それぞれの重要ポイントを解説していくので、実際に現場に立った場面を想像しながら読んでみてください。

全体を見る

牛舎に着いたらまずはじめに全体の状況を把握します。「全体」とは、牛舎環境や繫留方法、立っている牛の割合などです。

  • 温度・湿度は正常か?
  • 変な匂いはしないか?
  • どんな繫留方法か?
  • 前膝・飛節の腫れはどうか?
  • 乳房・後躯は汚れていないか?
  • 立っている牛は何%くらいか?

最低でもこれくらいはチェックしておきましょう。

とはいえ毎回すべてを確認してメモする必要はありません。全部見ていたら時間がいくらあっても足りないですからね。

気になる点だけサラッとメモしておいて、稟告や個体診察の結果と照らし合わせることが大切です。

稟告を聞く

続いて畜主の稟告を聞いていきます。

稟告は個体診察の大きなヒントになるので、聞き漏らさないように注意しましょう。

気になる点があれば獣医の方から質問することも大切です。日頃から牛をよく観察している畜主であっても、獣医が必要とする情報を余すところなくすべて話してくれるとは限りません。

最初から何でもかんでも聞くのは良くないですが、必要に応じて自分から情報を取りに行く姿勢も大事です。

また、稟告と合わせて分娩月日は必ず聞くようにしましょう。分娩に関係のある病気の予測ができるため、誤診を防ぐことにもつながります。

個体を見る

ここまできてようやく個体診察に入ります。牛舎環境や畜主の稟告などを踏まえて目の前の牛を診ていきます。

個体診察で見るべき5項目

牛の個体診察では、次の5つを中心に診ていきます。

  • 視診
  • 検温
  • 触診
  • 臭気
  • 聴診

それぞれのコツや注意点などを解説していきます。

視診

まずは視診から。手を触れる前の、なるべく自然な状態の牛を観察しましょう。

  • 起立姿勢
  • BCS(ボディコンディションスコア)
  • 腹部、乳房の形
  • 呼吸時の胸部や腹部の動き
  • 頭(下垂していないか、威嚇する様子はないか)
  • 目(陥没していないか、目やに・充血の有無)
  • 耳(下垂していないか、音に反応するか)
  • 鼻(鼻汁・出血の有無)
  • 口(反芻しているか、開口していないか)
  • 肘・膝・蹄の外転や内転の有無
  • 筋肉の左右アンバランスの有無

牛を前にしたら、まずはこのあたりを確認しましょう。

診るべきポイントが多すぎると感じるかもしれませんが、慣れてしまえば無意識のうちにできるようになりますよ。

また、つなぎ牛舎の場合は尿溝を見ることも大切です。

    【尿溝を見るときの着目点】

  • 便の状態
  • 悪露・膿汁の有無
  • 出血していないか

尿溝には牛を診察するうえで重要なヒントが落ちています。つなぎ牛舎のときは意識して確認するようにしましょう。

検温

続いて牛の体温を測っていきます。参考までに動物の正常体温を表にまとめました。

動物 正常体温(℃)
成牛 38.5
子牛 39.0~39.5
成馬 37.5
子馬 38.5

おおよそこの範囲内にあれば正常体温と言えるでしょう。とはいえ次のような例外もあるので注意が必要です。

    【正常でも高体温になるケース】

  • 夏場など気温が高いとき
  • 牛が走り回った直後など
    【正常でも低体温になるケース】

  • 冬場など気温が低いとき
  • 出生直後の子牛
  • 体温計を抜くのが早すぎたとき

出生直後の子牛は肺サーファクタントが充分に機能していないため、異常がなくても低体温になる傾向があります。このように、体温計の数字だけでは判断できない部分もあるということを頭に入れておきましょう。

また、水銀体温計を使う際は検温時間が大事です。水銀体温計の場合、深部体温が反映される検温時間は約10分と言われています。しかし実際の現場では1頭1頭の検温に10分もかけてたら仕事が終わりませんし、待ってくれる農家さんにも迷惑をかけてしまいます。牛を診察する際は「体温計は最初に入れて最後に抜く」を徹底しましょう。短いなかでもなるべく長時間の検温を心がけることで、正確な診察につながります。

ちなみに余談ですが、牛が低体温になる代表的な病気を紹介しておきます。

    【牛が低体温になる病気の例】

  • 低カルシウム血症
  • 甚急性乳房炎(ショック状態)
  • 大量出血(頻脈になることが多い)

このような病気のときは低体温になるということも覚えておきましょう。

触診

触診は慣れないと難しいですが、とても大事な指標となります。牛の触診で重要な部位は次の通り。

  • 第一胃(左膁部および肋間のルーメンマット)
  • 右腹部
  • 乳房(硬結・熱感・冷感・疼痛など)
  • 腫大部
  • 疼痛部
  • 尾力(分娩前は弱くなる)
  • 臍(子牛の場合は深部触診が必須)

畜主の稟告から、目の前の牛がどのような状態にあるのかイメージしながら触診しましょう。

また、再診の場合も「前日とくらべてどう変化したか」に注意しながら触診することが大切です。触った感触というのは数字で表せないため診察した獣医師にしかわかりません。責任を持って触診を行いましょう。

臭気

続いて臭気。牛の病気の中には特徴的な匂いを発するものがいくつか存在します。

  • ケトン臭(アセトン)
  • 腐敗臭(蹄間部、陰部、内股部など)

ケトン臭とはケトーシスなどの病気で確認できる特徴的なにおいです。嗅いだことのない人はイメージしにくいかと思いますが、一度でも嗅いだことのある人なら、あ〜あの臭いね、となるはずです。「汗のにおい」と表現する人も多いですね。

腐敗臭はその名の通りモノが腐ったにおいです。蹄底潰瘍などでよく遭遇するにおいですね。ちなみに内股部の腐敗臭は初産牛で多いと言われています。頭の片隅に入れておきましょう。

聴診

牛の個体診察5つ目のポイントは「聴診」です。覚えることが多くて大変かもしれませんが、あとひと踏ん張りなので頑張りましょう。

牛の診察において基本となる聴診部位は「第一胃」「心臓」「肺」の3つです。

【第一胃の聴診】

  • プライマリーサイクル(第一胃内容の攪拌)
    第二胃→第一胃背のう→第一胃腹のう
  • セカンダリーサイクル(あい気)
    第一胃背のう→第一胃腹のう

健康牛の第一胃運動音は1分間に約1回のペースで聴こえます。第二胃の音を聴きたいときは、第7-8肋間を目安に聴くとよいでしょう。

また、迷走神経性消化不良などの病気ではプライマリーサイクルの消失を確認できます。

【心臓の聴診部位】

  • 左側(移行聴診)
    肺動脈弁:第2-3肋間、肩関節の高さよりやや低め
    大動脈弁:第3-4肋間、肩関節の高さ
    僧帽弁:第4-5肋間、肩関節の高さ
  • 右側
    三尖弁:第4肋間、肩関節の高さ

心臓の聴診は移行聴診(聴診器を動かしながら聴診すること)が基本となります。

ときどき出生後2~3日の子牛で心雑音が聞こえる場合がありますが、成長とともに消失するのがほとんどです。

右房室弁(三尖弁)は疣贅性心内膜炎の好発部位なので、ここで雑音が聴こえたときは注意して診察を進めていきましょう。

【心音】

  • Ⅰ音:収縮期心音(房室弁の閉鎖)
  • Ⅱ音:拡張期心音(大動脈弁・肺動脈弁の閉鎖)
  • Ⅲ音・Ⅳ音:通常は聴取できない

高血圧の牛ではⅠ音の分裂が聴取されることがあります。しかしこれが聴こえたからといって必ずしも異常とは限りません。生理的なⅠ音の分裂というのも存在するので、他の所見と合わせて診断するようにしましょう。

【心拍数】

  • 心房細動:脈拍数より心拍数が多くなる
  • 頻脈:成牛 90/分以上、若牛 100/分以上、子牛 120/分以上
  • 徐脈:迷走神経の緊張が原因

牛の脈拍は外腸骨下動脈で測定します。

通常は心拍数と脈拍数が同じ数になりますが、明らかに心拍数の方が多い場合は心房細動を疑いましょう。

【心雑音】

  • 心内雑音
  • 心外雑音

心内雑音と心外雑音を聴き分けるのはハッキリ言って難しいです。心外雑音の場合は胸骨をたたくと激しく苦しむという話を聞いたこともありますが、アニマルウェルフェア的にもあまりおすすめしません。参考程度に知っておきましょう。

【肺・気管支の聴診】

基本的に牛の呼吸数を測るときは気管で聴診します。

肺の音はほぼ聴こえないのが普通で、明瞭な音が聴こえるときは肺炎などの病気を疑います。

牛には気管の気管支があるため、右肺前葉前部は肺炎のリスクがもっとも高い場所になります。牛の肺炎を疑う際は、特にこの部位は慎重に聴診する癖をつけましょう。

肺の聴診では副雑音にも注意する必要があります。

  • 断続性ラ音:水泡音、捻髪音、湿性ラ音
  • 連続性ラ音:笛様音、いびき様音、乾性ラ音

子牛でラ音(ラッセル音)が聴こえにくいときは、一時的に口と鼻をふさいで聴診すると聴こえやすくなります。

【その他の聴診】

これまで紹介した以外にも、聴打診(ピングテスト)、振とう聴診などさまざまなテクニックがあります。

牛の状態に応じて使い分けることが大切です。この辺については大事なことなので、また別の記事で解説しますね。

どうしてもわからない時は…

さて、牛の診察に関する重要ポイントを解説しましたが、「知っている」のと「できる」のは全く違うということも頭に入れておきましょう。私自身もそうでしたが、慣れないうちは「分かっているのにできない」というもどかしい状態が続きます。しかし、あれこれ考えながら悪戦苦闘するうちに「あ…そういうことか!」と思える瞬間が必ず訪れるはずです。

どうしてもわからない時は一人で抱え込むのではなく、先輩に頼ることも大事です。恥じらいを捨てて素直に質問することで、新たな発見が得られたりします。ぜひ諦めずに頑張ってみてください。

まとめ:牛の診察は奥が深い

では、ここまでの内容をまとめます。

  • 牛を診察する流れは「全体を見る→稟告を聞く→個体を見る」の3ステップ。
  • 個体診察で重要なのは、視診・検温・触診・臭気・聴診の5つ。
  • どうしてもわからない時は先輩に頼ることも大事。

こんな感じですね。

今回の内容は牛の獣医師として必ず知っておくべき基礎中の基礎です。何度も読み返してしっかりと頭に入れておきましょう。

それでは、また。